「あの有名企業は、なぜ中途採用に熱心なの」 2014年4月9日東洋経済の記事から
ニトリが「中間採用」と呼ぶ理由
家具・インテリア製造小売り大手のニトリホールディングス(以下、ニトリ)は、もともと中途採用に積極的な会社だ。ここ10年間の中途採用は年間平均50人。リーダー層や幹部層を社外から採用し、社員の平均年齢は30年前の27歳から、現在、32歳にまで上がった。
「わが社では『中途採用』ではなく、『中間採用』という言い方をしている。『中途採用』はいかにも“プロパー社員”に対して“中途”というイメージがあるが、『中間採用』は期の中間で入ってきた社員ということ。そういう方々に戦力を補強していただくという意味でずっと使っている」と、組織開発室長の五十嵐明生さんは話す。
戦力補強のために求める人材は、自分で計画を立てて、起案して、行動できる人。「指示を待たなくても独りで動けるスペシャリストに来ていただきたい。20代は体で作業をマスターする時期であり、結果として、30〜50代の人を中間採用してきた」。
今後、ニトリは世界中に店舗を広げる予定だ。「わが社のロマンは『世界の暮らしを豊かにしたい』」。現在、台湾に17店舗、アメリカに2店舗(注:2014年4月12日で3店舗)を出店。中国にも出店していく。そのため、語学が堪能で、海外経験がある人を求めているが、面接で問うのは、海外で何をどうしたか、だ。
「会社が決めたルールに従って、粛々と仕事をしていたような人はいらない。海外において自分で新しいビジネスを創出し、自ら仕事を変革してきた人が欲しい」
大手企業のノウハウを蓄積、現場で化学反応
ニトリの求人に応募してくる人の前職は、メーカー、商社、金融、国家公務員など多岐にわたる。パナソニック、キヤノン、住友商事、メガバンクなどの大手企業に勤める人が、ニトリに転職するのは、BtoCの「C」の存在が大きいという。
「面接で志望理由を聞くと、うちには小売り機能があり、直接、結果が見えるのが魅力らしい。わが社の8割の商品は海外で作ったプライベートブランド。自分たちで企画、デザイン、制作、品質検査を行い、運んでくる。まさに、いろいろな業種・業界の方の力が生かされて、最後の小売りによってお客様の反応と手応えを実感できる」
同社では、中間採用の社員を必ず半年から2年、店舗に配属し、現場の仕事を学ばせる。SEやデザイナー候補者も例外はない。自分が持っている能力をベースに、現場の問題を把握し、どこを改善できるか、改善すべきことは何かがわかるからだ。
公認会計士の男性は、店舗の副店長を務めた後、物流センターの責任者になり、現在は海外の子会社で生産管理を担当している。数字に強いという能力をベースに改善に取り組む。
9年前にホンダから転職してきた杉山清専務(71歳)は、ニトリの品質管理を担当し、「ホンダイズム」をもたらした。命にかかわる自動車の検査基準や考え方をニトリの品質検査に適用している。
大手企業のノウハウを蓄積しながら、成長し続けるニトリ。異業種・異業界の知識やスキルと、ニトリの現場が“化学反応”を起こすのだろう。
「ニトリの歴史は、チェンジとチャレンジの繰り返し。変えることが褒められる会社なのです。現状に満足せず、今日うまくいったことでも変えていく。今日よりも明日、明日よりもあさって、もっといい方法があるはずだと考えて実行していく。そういう気持ちがある人なら、何歳でもかまわない」と、五十嵐さんは語る。
スポーツ用品メーカーのアシックスは毎年30人程度を中途採用し、30代以上の割合が増えている。
同社は、日本人の印象ではドメスティックな企業のイメージが強いかもしれないが、海外事業を強化しており、アメリカやヨーロッパを中心に、売り上げの7割を海外が占める。グローバル市場での業界売り上げ1位はナイキ、2位はアディダス、3位はプーマ。アシックスは、実に世界4位だ。日本市場ではミズノが首位だが、世界ではアシックスが強い。
グローバル管理統括部人財開発部の川隅加津年さんは、こう話す。
「日本市場がこれから爆発的に伸びることは考えにくいので、グローバル市場で規模を大きくしていきたい。ただ、世界のトップとは大きく水をあけられている」
ナイキの売り上げは約2兆5000億円で、3位のプーマは約4200億円、アシックスは2014年3月期で約3270億円の見込み。まずはプーマに追いつけ、追い越せと奮闘している。
神戸の本社は、グローバル市場全体をコントロールしていく機能を備えるべく転換中だ。グローバル市場で戦うには、これまで経験してこなかった新たな課題やタスクが、さまざまな部署で発生している。
たとえば人事では、日本の従業員のみを対象にした制度と、グローバルを前提とした制度では、国ごとの法律や文化の違いなど、考慮すべき範囲が一気に広がる。そこで、グローバルでの人材マネジメントの経験者を大手製薬メーカーから採用した。採用時の年齢は42歳。「課題を解決できる人であれば、年齢は問わない」と、川隅さんは語る。
アクセンチュアは、経営コンサルティングのほか、テクノロジーサービスやアウトソーシングサービスを提供するコンサルティング会社だ。世界200都市以上に拠点を構え、120カ国を超えるクライアント企業にサービスを提供している。
「グローバル全体で毎年、継続的な成長を遂げていく」。これが全世界に対して発信している同社のメッセージ。内需の大幅な拡大が見込めない日本でも、同じ成長を求められている。クライアント企業のグローバル化やデジタル化の進捗に合わせて、アクセンチュアの体制も変えていく必要があるのだ。
「お客様のビジネスの状況をつかみ、さらに先をいかないといけない。旧態依然としたまま、あるいは後追いしていては競争に負けてしまう」と、人事部長の武井章敏さんは話す。
さまざまな業界の知識を取り入れるため、中途採用を促進している。中途と新卒の割合は半々だ。
業界が動くにつれて、採用ターゲットも変わる。過去5年間の大きな流れは、電機メーカーを中心とするハイテク産業からのシフトチェンジ。自動車メーカーなど、ほかの製造業やサービス業、飲食、アパレル、金融の割合が増えた。「これまで日本は大手電機メーカーが産業を牽引してきたが、リーマンショックを契機に、より市場が多様化していった」。
アクセンチュアが求める人材像(10項目)をまとめたパンフレット
中途の人材に求めるものは2つ。ひとつは、日本企業のグローバリゼーションをサポートしていける人だ。企業が海外に市場を求めていく中で、グローバル全体での流通や在庫管理、ファイナンス面の仕組みを統一、効率化する支援をしていく。視点を国内のみならず世界に向けて、成長戦略を描ける人を求めている。
もうひとつは、各業界の知識や経験を豊富に持った人。これまでは同業他社での勤務経験があり、アクセンチュアが提供しているシステムやプラットフォームなどの技術的な知識を持った人を中心に採用してきた。だが、そうした技術は入社後の研修でも身に付けられる。加えて昨今では、技術の一部は中国やインドなど海外の人材で賄うことが可能になった。日本人に求められるのは、各業界の深い知見や経験だ。さらにはプロジェクトマネジメントができる、海外のクライアントを対応できる、といった能力も重視されるようになってきた。
「技術的な知識はあるが、金融業界には疎い人が金融業界のお客様を対応するより、自身が金融業界出身で、お客様と同じ目線で課題を特定し、解決策を提案していく。そういう役割がより重要になっている」と、武井さんは語る。
続いて、アクセンチュアに転職した30代男性の体験談を公開する。
泥くさい部分がないと業務改革はできない
戦略グループのシニア・マネジャー鶴田雄大さん(37歳)は、外資系メーカー2社の経験がある。1社目ではコンシューマー向けのパソコンのマーケティング、2社目では新規事業開発を経験し、アクセンチュアに31歳のとき、転職した。
現在、担当するクライアント企業は、通信業界とハイテク業界が中心で、主にM&A、事業再生、業務改革を手掛ける。前職の業界知識と現場の経験が生きているという。
「ビジネスには、経営戦略を描くようなシャープな部分と、地道に現場を動かしていく2つの要素があり、両方の理解と経験が欠かせない。戦略コンサルタントの仕事も、シャープな仕事ばかりでない。現場感が圧倒的な説得力を増す」
通信業界の業務改革を担当したとき、鶴田さんは下請け企業の現場に1カ月張り付き、施工担当者が毎日、どんな業務をして、どういう課題を抱えているかを観察し、可視化した。
「こういう泥くさい部分がないと、業務改革はできない。現場はこうしないと動かないとか、お客様が属する業界の意思決定がどのように下されるかを理解することが、業務改革の着実な支援につながる」
その業界の現場をすんなり理解できる素地もあったのだろう。「中途の強みは、業界知識と現場経験だ」と鶴田さん。だが、それにとらわれすぎると弱みに転じることもあると戒める。
「自分の成功体験を強く信じ、自分のやり方に固執すると、なかなかレガシーを変えられない。自分が積み上げてきたものを一回、ゼロリセットするくらいの気概を持って、新たに学んでいく姿勢が大事」
強みを発揮しながら、強みを捨てて変わることを恐れない。そんな人材が求められているのだ。
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