「結婚して数年、子どもができないのは妻のせいだ」
そんな言葉を投げつけられ、悩んでいる女性は少なくありません。
しかし、実際には 不妊原因の約半数は男性側 にあるとされています。
この記事では、男性不妊の原因や検査・治療法、そして「妊娠できないこと」が原因で起こる夫婦関係の悪化や離婚リスクについて解説します。
同じ悩みを抱えている方にとって、正しい知識と前向きな解決策を見つけるきっかけになれば幸いです。
妊娠できないのは妻だけの問題ではない「子供ができない=女性のせい」という誤解
昔からのイメージや、妊娠・出産をするのが女性であるという事実から、「不妊の原因は女性側にある」という考えが根強く残っています。しかし、これは医学的に見て正確ではありません。
実際には約半数は男性側に原因がある
世界保健機関(WHO)の調査によると、不妊症の原因は、女性のみに原因がある場合が約41%、男性のみに原因がある場合が約24%、そして男女両方に原因がある場合が約24%と報告されています。つまり、不妊に悩むカップルのうち、約半数(48%)は男性側にも何らかの原因が関係しているのです。
この事実を知らないままだと、妻だけが婦人科に通い、辛い検査や治療に一人で耐えることになりかねません。夫は「協力しているつもり」でも、妻は孤独感を深め、夫婦の心はすれ違ってしまいます。
夫婦で協力して検査・治療を進める重要性
不妊は、決してどちらか一方の「せい」ではありません。夫婦が「二人の問題」として捉え、最初から一緒に検査を受け、手を取り合って治療に進むことが、妊娠への近道であり、夫婦の絆を守るためにも不可欠なのです。
男性の不妊の主な原因とは?
では、具体的に男性不妊とはどのような状態なのでしょうか。主な原因は、精子を作る機能(造精機能障害)に関するものです。
精子の数や運動率の低下
- 乏精子症(ぼうせいししょう):精子の数が基準値よりも少ない状態。
- 精子無力症(せいしむりょくしょう):精子の運動率が低く、卵子までたどり着く力がない状態。
- 奇形精子症(きけいせいししょう):正常な形をした精子が少ない状態。
これらの症状は自覚症状がほとんどなく、検査をしてみないと分かりません。
無精子症とは何か
射精された精液の中に、精子が一体も見当たらない状態を「無精子症」といいます。これには2つのタイプがあります。
閉塞性無精子症:精子は作られているものの、精子の通り道(精管)が詰まっているために、外に出てこられない状態。
非閉塞性無精子症:精巣(睾丸)で精子を作る機能そのものに問題がある状態。
「無精子症=妊娠は不可能」と絶望する必要はありません。後述する治療法によって、子どもを授かる道は残されています。
ストレスや生活習慣、喫煙・飲酒との関係
精子を作る機能は、非常にデリケートです。過度なストレス、睡眠不足、偏った食生活、肥満といった生活習慣の乱れは、精子の質を低下させる大きな要因となります。また、長期間の喫煙や過度な飲酒も、精子の数や運動率に悪影響を与えることが科学的に証明されています。
男性の不妊の検査と治療法
「もしかして自分も?」と感じたら、まずは専門の医療機関で検査を受けることが第一歩です。
精液検査の流れ
- 精液量
- 精子濃度(1mlあたりの精子の数)
- 総精子数
- 精子運動率
- 正常形態率
男性不妊の最も基本的な検査が「精液検査」です。
クリニック内の採精室、または自宅でマスターベーションによって精液を採取し、顕微鏡で以下の項目を調べます。
痛みもなく、比較的簡単な検査ですので、ためらわずに受診しましょう。
男性不妊専門の泌尿器科・クリニック紹介
検査は、婦人科だけでなく、男性不妊を専門とする泌尿器科や、不妊治療専門クリニックで受けることができます。専門医であれば、より詳しい検査や原因の特定、治療の相談が可能です。まずは、お住まいの地域で専門のクリニックを探してみましょう。
無精子症の治療(手術・顕微授精など)
もし無精子症と診断された場合でも、道はあります。
精巣にメスを入れ、精子を直接採取する「精巣内精子回収術(TESE)」という手術があります。この手術で精子が見つかれば、「顕微授精(ICSI)」という方法(一つの精子を卵子に直接注入して受精させる高度な生殖医療技術)によって、妊娠の可能性があります。
不妊による夫婦関係の悪化と離婚リスク
不妊治療は、夫婦の絆を深めることもあれば、逆に深刻な亀裂を生むこともあります。
妊娠プレッシャーが夫婦仲に与える影響
「排卵日はいつ?」「今月もダメだったか…」
妊活が生活の中心になると、夫婦の会話から笑顔が消え、セックスは「子作りのための義務」になりがちです。こうしたプレッシャーは、夫婦関係に重くのしかかります。
モラハラや責任転嫁の実例
特に、男性不妊の事実を受け入れられない夫が、妻に対して心ない言葉をぶつけてしまうケースは少なくありません。
「そもそも君の体が弱いんじゃないのか?」
「俺は問題ない。原因はお前だ」
(義両親から)「早く孫の顔を見せてくれないのか。嫁に問題があるんじゃないのか」
このような言葉は、妻の心を深く傷つけ、精神的なモラルハラスメントに発展することもあります。
不妊が原因の離婚・慰謝料のケース
不妊を乗り越えられず、お互いを責め合い、コミュニケーションが取れなくなった結果、離婚に至る夫婦は残念ながら存在します。不妊そのものが法的な離婚理由になることは稀ですが、不妊をきっかけとしたモラハラや協力義務違反などが原因で、慰謝料請求が認められるケースもあります。
不妊治療と再婚での妊娠成功例
一方で、正しい知識を持ち、パートナーと向き合うことで、希望の光が見えるケースも多くあります。
再婚後に妊娠できた事例
前のパートナーとの間で長年不妊に悩んでいた方が、離婚・再婚後、新しいパートナーと不妊治療に取り組んだ結果、子どもを授かるというケースがあります。
これは、不妊の原因が一方だけにあるとは限らないこと、そして夫婦の組み合わせや、適切な検査・治療によって結果が大きく変わることを示唆しています。
「不良品」という偏見の間違い
自分やパートナーを「欠陥品」「不良品」などと蔑むのは、絶対にあってはならないことです。不妊は誰にでも起こりうる医学的な症状であり、人格や価値とは全く関係ありません。こうした偏見こそが、夫婦を最も苦しめる元凶です。
正しい知識と支援が妊娠につながる
大切なのは、根拠のない情報や感情論に振り回されず、専門家のもとで正しい知識を得ることです。そして、夫婦がお互いを思いやり、支え合うこと。それが、辛い治療を乗り越え、妊娠という目標にたどり着くための力になります。
夫婦でできること
では、今日から夫婦で何ができるのでしょうか。
妊活の基本(生活習慣改善、検査の受診)
夫も一緒に検査を受ける:まずは、ためらわずに精液検査を受けましょう。
生活習慣を見直す:バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、禁煙・節酒を夫婦で始めましょう。
体を温める:血行を良くすることは、男女ともに生殖機能にとって良い影響があります。
お互いに責めないことの大切さ
検査結果がどうであれ、決してパートナーを責めないでください。「二人で乗り越えていこう」という姿勢が何よりも大切です。辛いときこそ、感謝の言葉を伝えたり、スキンシップを大切にしたりと、コミュニケーションを密にしましょう。
カウンセリングやサポート機関の利用
二人だけで抱え込むのが辛くなったら、専門家の力を借りましょう。不妊専門のカウンセラーや、NPO法人が運営するピアサポート(同じ悩みを持つ人同士の支え合い)など、相談できる場所はたくさんあります。
各都道府県にも「不妊専門相談センター」が設置されていますので、一度調べてみることをお勧めします。
まとめ最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。
妊娠できないのは「妻だけの問題」ではない
不妊の原因の約半数は男性にも関係しています。根拠のない思い込みは捨てましょう。
男性不妊の理解と正しい検査・治療が必要
男性不妊には様々な原因があり、その多くは自覚症状がありません。まずは専門医のもとで検査を受け、正しい知識を得ることが第一歩です。
夫婦が協力してこそ妊活の成功につながる
不妊は、夫婦の絆が試される時でもあります。お互いを責めず、思いやり、支え合うこと。二人三脚で向き合う姿勢こそが、新しい家族を迎えるための何よりの力となるはずです。
もし今、あなたが一人で悩んでいるのなら、この記事をそっとパートナーに見せてみてください。そこから、二人の新しい一歩が始まるかもしれません。
